MADE IN EARTH」ノベライズ

クリスマス・バージョン


ガスト・ノッチ 作    栗原一実 絵





「出向期間の、延長・・・ですか?」
三木真は、言葉に疑問を隠さなかった。
「ああ、後5日間だけだが、延長させてもらった。何か、まずいことがあるか?」
目の前でタバコをくゆらせているのが、御堂進・・・『ユニット』の開発責任者であった。
「・・・いえ、大丈夫です」
「そうか。実はお前用に会わせた新たなユニットができるんだ。それができるのが
 24日なんだよ。ま、クリスマスプレゼントになるのかな」
さらりと言うと、満足げに煙を吐き出した。
「以上だ。何か質問はあるか? なければ、今日は終了だ」
「いえ、ありません。では、失礼いたします」
ドアを閉めた後、真は深くため息をついた。
「まいったな・・・クリスマス、どうしよう」





「ねえ、由羽ちゃん。サンタクロースって、本当にいると思う?」
「どうしたんですか?」
由羽は真の質問もさることながら、その様子に驚いていた。
 明らかに困っているのが見て取れたからだ。
「実はね・・」


「え〜っ、お姉ちゃん帰ってこれないの?そんなのやだぁ〜」
「ごめんね、お姉ちゃん、お仕事なんだ」
電話の向こうで話しているのは、真の姪である。
「いい子にしてたら、ちゃんとお土産買って帰るからね。」
「うん、わかった・・・」
その姪からの留守番電話が入っていたのは、それから2日後の事だった。
『お姉ちゃん、サンタクロースってちゃんといるんだよね? 友達が、サンタなんて
 いないんだ、っていうの。パパに聞いたら、お姉ちゃんに聞いてごらんっていうの。
 だから、教えて? サンタって、いるんだよね』


「・・・というわけなの。何て答えてあげたらいいのかしら・・・」
「えっと・・・」
なかなかよい答えが見つからない二人だった。
この二人にとってはとても難しい質問だったのだ。
「うまく、言えませんけど・・・」こう前置きして、由羽はゆっくりと話し始めた。
「あの時からずっと、私のサンタさんはお兄ちゃんでした」
「あの時・・・?」
『あの時』とは、由羽の両親が事故でなくなった時のことだった。由羽が語りはじめ
たのは、その年のクリスマス、御堂進15歳、由羽6歳の時のことだった。

「私、すごーくお兄ちゃんを困らせたと思います。サンタさんへのお手紙に、こんな
 事書いちゃったんです」
進はその手紙をそっとのぞいてみた。そこには、つたない文字で切ない望みが、
たどたどしくつづられていた。
『お父さんとお母さんの夢を、見せてください』
さすがの進も、これにはどうしようもなかった。
「由羽・・・っ」
どうすることもできない自分が恨めしくてたまらない。悟られないように振る舞う
のが、精一杯だった。
「ねえお兄ちゃん、今年もサンタさん、来てくれるよね?」
「ああ、大丈夫だ。由羽はいつもいい子にしてるからな。きっと、来てくれるぞ」
進はにっこりと笑った。由羽は安心したかのように、目の前のクリスマスケーキに
ぱくついた。
「私は何の疑いもなく、ベッドに入りました。いつものように、お兄ちゃんは眠るまで
 そばにいてくれました」
由羽と進のベッドは、同じ部屋にはあったが、別々のベッドだった。進は遅くまで
起きているので、一緒の時間に寝る事がなかったからである。
「それで、どうなったの?」
思わず真は口を開いてしまっていた。
「その夜、夢を見ました。とても暖かくて、気持ちの良い夢でした。お父さんと
 お母さんだったのかは、わからなかったんですけど」
そして朝、である。
「お兄ちゃん・・・?」
由羽が目を覚ますと、そこには由羽の傍らで、膝をついたまま、顔をベッドに埋める
ように眠る進がいた。
「お兄ちゃんは一晩中、私のそばにいてくれたんです。私はその時、お兄ちゃんが
 あの夢を見せてくれたんだって思いました。お兄ちゃんがサンタさんにたのんで
 くれたんだったって」
進にはどうしようもない事であった。しかし、だからといって由羽の願いを諦める
わけにもいかない。進は出来ることをしよう、と思ったのだ。





「・・・いいお話ね」
真はふう、とため息をついた。
「だから、その、上手く言えないですけど、やっぱりサンタさん、いるんじゃない
 でしょうか?」
「そう、ね」
真は思った。私も、サンタになれるのではないだろうか、と。切なる願いを叶えて
くれる、そんなサンタクロースの意志を叶えたいと思うものが現れ続ける限り、
サンタクロースはいるといってもよいのではないだろうか、真はそう思わずには
いられなかった。

さて、クリスマス・イブである。

真は、サンタクロースになっていた。

「あの・・・これが新ユニットなんですか」
思わず声が震えてしまう。
「おう、お前むけに更にカスタマイズした、クリスマス限定仕様だ!もっと
 飛びやすくなるはずだ。」
進は自信たっぷりに胸を張った。
「それはありがたいんですけど・・・なんでサンタガールなんですか!」
「萌えるからに決まってるだろうが!」
即答だった。
「それにな、お前はそれにふさわしいと思ったのさ」
真はハッと進と由羽を見つめた。見ると、由羽もサンタガールになっていた。
「三木さん、素敵です!」
「・・・はぁ」真はため息をついた。でも、そんなに気分が悪いわけでもなかった。
そう、今日はクリスマス・イブなのだ。

「イグニッション!」二人はイブの空に飛び立っていった。
「メリークリスマス!」


おわり







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